jam-packed
- ・・・3・・・
なに?! 何で俺がセンパイにキスされてんのさ!
慌ててバタバタと手足を動かしたんだけど、俺の手足は空を切るばかり・・・。
センパイの顔に気を取られている間に、俺はセンパイに抱きかかえられていたのだ。この人、マジ油断ならねぇ!
とにかく降ろしてもらおうと、俺は思いっきりセンパイの胸を押す。でも、結構強い力で押したにも関わらず、センパイはびくともしなかった。
ムッカ〜! 身長差もあるけどウェイトもかなり差があるからな〜! 押してもどうにもならないのは、同じ男としてマジむかつく。っていうより・・・情けない。
「ちょっ! センパイ?! ねぇっ! 放して!! っつーか、降ろせ!!」
「答えはもうわかっているんじゃないか?」
「何の答えだよ!」
俺はすっかりパニックになっており喧嘩腰で怒鳴ったのだが、センパイはそんな俺に構わずいつもの調子で答えた。
瞳の見える至近距離。今まで見たことのない、とても柔らかな笑みを浮かべて。
「俺がお前のことを好きだって事さ」
「・・・・・・はっ? それって」
センパイは今まで俺がどんなに押しても放してくれなかったのに、アッサリと俺を降ろし、さっさと歩いて行ってしまった。
「ちょっと! 乾センパイ!!」
呼んでも振り向かないと思われたが、意外にも俺の予想は外れた。
センパイはすぐに振り向き、俺に向かって手招きする。
俺はなんだか腑に落ちないまま、不機嫌を露にして近づくと、
「Are you seeing anyone now?」
といって、センパイが俺の手を引いた。
まさかセンパイが英語をしゃべれるとは思わなかった俺は、ぽかんと先輩を見上げたまま手を引かれている。
(センパイ、英語できたんだ。何か俺、驚かされっぱなしなんだけど・・・・・・・・・ん? あ、なるほど)
驚きながらも俺は頭の隅のほうで納得した。
さっきの意味深な言葉のせいもあったけど、今ので確定。
(今付き合ってる子、いるの?)
乾センパイ、俺のこと好きだったんだ。
かといって、いきなりそんなことが分かっても俺は困るだけだ。
だって今までセンパイのことをそんな風に考えたことがなかったから。
今はセンパイのことを好きか嫌いかは別として、とりあえず今の状況を考えてみる。抱き上げられたりしているのに、今更手を握られているぐらい平気だし・・・で、結局俺はセンパイと手をつないだままにしていたんだけど、もう一つ気が付いたことがある。
先輩の手、かすかに震えてる。
気のせいじゃないよな?
俺は確かめるようにぎゅっと強く手を握り返してみた。
するとセンパイの手がピクッと反応する。
あ〜、参った。さすがの俺にも分かっちゃったよ。
俺が握り返すと思ってなかったんでしょ、この人。
意識しだすと止まらない。
なんでかな。いつもクールで感情をなかなか表に出さないこの人が、ただ手をつないだだけなのにこんな反応を返すなんて。
可愛く思えるじゃないか。
いままでこんなこと、思ったこともなかったのに。
どう責任とってもらおうか?
俺は、俺の手を取ったまま、ただ黙々と歩く大きな先輩の背に向かって、はっきりといってやった。
ほんの意趣返しのつもりで。
「There's someone in my life now.(俺、好きな子がいるんだ)」
なのに、それはセンパイにアッサリと返される。
「へ〜、それは俺のデータにもなかったな。どんな子なんだい?」
意地悪してやろうと思って言ったのに、冷静に返されてしまった。
なんだよ、面白くない。相変わらず先輩の手は手はかすかに震えてるって言うのに。
そうだったよな〜。センパイってそういう奴だよ。
「ねぇ。俺のコト、好きならもうちょっと反応返してくれてもいいんじゃない?」
「まだ越前から返事聞いてないしな」
「聞かなきゃわかんない? この状況で?」
あ、先輩の手がちょっと温かくなった。
「いや、分からないかもね」
どうやら俺は、混雑した電車がきっかけで複雑な恋人が出来てしまったらしい。
もう何も言うまい。。。
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