アンバランス


二人のキスは、いつもこうだ。

184cmと151cmの身長差。
身長差が33cmもあると、必然的にリョーマはめいいっぱい背伸びをして。
逆に乾は腰をかがめることになる。
はたからみると、その様子は凄くアンバランスで。



「・・・首イタイ」

ある日のこと。
唇がはなれた途端、リョーマがポツリとつぶやいた。

「じゃぁ、痛くないようにしてあげようか?」

「え?」

とういうと乾はひょいとリョーマを抱き上げ、
視線を同じ高さに合わせると、チュッっと音を立ててリョーマの唇に軽いキスをした。
一瞬でリョーマの顔が紅く染まる。

「なっ! なにすんのっ?!」

「これなら首も痛くないだろう?」

「う〜・・・でもヤダッ!」

「どうして?」

「だって、一方的な感じがする」

リョーマの可愛らしい答えを聞いて、乾は微笑む。

「それなら・・・」

「・・・なんで、そんなこと今ココでやるのかな?」

はっと気が付いて乾が後ろを振り向くと、そこにはいつもどうりの笑みを浮かべてた不二が仁王立ちしていた。
但し、うっすらとだが開眼しており、後ろのオーラは何故だかトグロを巻いているようである。

「不二センパイ?!」

乾の影に入っていた為、全く不二に気付いていなかったリョーマは、慌てて乾から離れようともがく。
が、そんなことを許す乾ではない。
離れようとして暴れるリョーマをものともせず、今度は不二にも見えるように、乾はリョーマを正面に抱えなおした。

「仕方ないじゃないか、不二」

「ナニがだい?」

「ちょっ、乾センパイ!!」

乾が何を言うのかと気が気でないリョーマは、乾の襟をぐいっと絞め、目で『何も言うな!』と合図を送る。すると、乾はそれを受けてニッコリ笑い、

「越前が可愛いのだから仕方ない」

と、何食わぬ顔でのたまった。

「なっ・・・! 乾先輩のバカァ―――――!!!」

瞬間湯沸し器のように、頭から湯気が出るのかと思うほど一気に真っ赤になったリョーマは、乾の腕を振り解くと、一目散に部室へと走り去っていってしまった。
そんなリョーマの後姿を見て、さらに乾は鼻の下を伸ばしている。

「フフフ、可愛いなぁ俺の越前は」

「・・・乾、そんなに死にたいの?」

それまで一応笑みを浮かべていた不二であったが、リョーマがいなくなってしまえばそんなことはもうお構いなしだ。
開眼率100%、背後に異空間を背負って、下から乾を睨め付ける。
(一瞬、不二の背後に死神の鎌が見えたよ/菊丸談)

「いや、遠慮しておくよ」

「そう?」

「越前が悲しむからね」

「!」

乾の惚気っぷりに流石の不二も中てられたか、よろりとフェンスに寄りかかると、手をひらひらさせてげんなりとしている。

「あ〜はい、分かったから。ゴチソウサマ。ぼくが悪かったよ。もういいからアッチ行ってくれる?」

そんな不二の様子を満足そうに眺めて、乾は歩き出す。

「そうかい? じゃ、お言葉に甘えて失礼させてもらうよ」

そのまま乾が向かう先は、勿論部室である。

「あ〜ぁ、乾なんかの何がいいんだろうね、ぼくの王子様は。乾とじゃ、まるでアンバランスじゃないか」

不二はフェンスに寄りかかったまま、部室へ向かう乾にわざと聞こえるようにもらすと、突然乾が振り向いてボソリとささやいた。




「俺と越前の気持ちのバランスは100%だよ、不二」




「〜〜〜〜ッ!! エージ! 相手して!!!」

「ひ、ヒャイッ!」

リョーマとの時間を邪魔されて、ひそかに怒っていた乾はこれで気が済んだと言うように、軽い足取りで部室へと歩いていく。
一方、折角鎮火していた嫉妬と言う炎に、油を注がれた不二のとばっちりを食らうのは、やはり菊丸であった。



アンバランスだって? 俺と越前のどこが?
確かに見た目はそうかもね。
でも、俺の100%の愛情に100%で答えてくれる、こんなに素晴らしい・・・バランスの取れている恋人は、世界中どこを探したっていやしないよ。

部室の中で臍を曲げているであろう、可愛い恋人をなだめる策を考えつつ、 乾はドアをノックする。

「入るよ、リョーマ?」



これがアンバランスで稀有なバランスを保つ、彼らの日常。

そんな日常にリョーマは未だ戸惑い。
こんな日常に乾はとても満足している。







END

乾リョの傾向は砂吐き系らしいです。。。

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